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気をつかい、目を合わさぬようにと、ぶるぶる怯えながら、山積みのギフトボックスなどをひとつずつ開け、懸命に、精神を削った。大げさではない。
この頃に、大阪市内のこの下町にもごみの分別が開始された。
なぜ「今」なのかと、慣れないことのストレスだけでこうはならない。
物の多さのそのぶんの手垢が付着しているわけで、ささやかな空想を蝕み、虚無をぼてっと生むほどの手垢は息苦しく、窒息せぬため、さらなる‘空想’を、唱える、と言うのも変だが、困った時の南無妙法蓮華経と言わんばかりの勢いであったため、やはり空想は唱えていた。
思い出などは、物質的にひとつ、残すか残さないかが、丁度良いようだ。
母のこの物持ちの良さにつき、それこそレトロな珍なものもあって、いいものを見つけたらば、ひととき好奇心の安着につけた。
いいもの。
上にも下にもボックスが積まれ、もう存在感のない事務机から取り出した、錆びた和菓子のカンカンから、お元気ですか?と。
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