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そのカンカンは、母のシークレット・ボックスだった。
ミキ男という男からのレタアがびっしり入っていた。
ざっと焼けて、所々しみのある紙の色あいに年期をうかがう。二枚重ねの便せんが、香ばしい香り付きで、昭和のロマンスだと、私を興奮させた。
それ以上に、この男を知っていて、これについてはたいへん興味があった。
五年前、中学の頃にこれを一通発見している、ところの文体に、何やら甘い匂いを漂わせていたので、問い詰めたところ、母は青春時代の彼氏だと言った。
それは嘘ではなかったが、思春期を気遣かった様で、母がバツニだと、聞いたのはそれから少し後で、私のオッサンではなく、つまりミキ男は青春の夫だった。
その青春から40年ほど経っているが、悪いことは、ひとつも聞かなかった、無意識に、美しいものだけをすくいとり、事実を食い違わせる、思い出は、そんなんだ。
それを知っていれば、後悔もないが、お母さんなのに、大人なのに、彼女は執着していた。昨日さえ、錆びるというのに。
前の一通も、このカンにしろ、熟したときにだけ、現れるように、はじめから決まっているようで、その正確さには、ゾッとする。
だから、封印はためらうことなくとける。
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