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この後、俺はどうしたのか全く覚えていない。近くで見ていた人達によると、兄が俺に何かを伝え、息を引き取った後、まるで修羅のように二体の魔物を殺したそうだ。
ただ一つ覚えていることがある。
「ジャン。よく聞きなさい。世界は広い。お前のように魔法が使える人間はごまんといる。それに魔法が使えなくとも魔法が使える人間より強い人も沢山いる。ジャン。世界を見なさい。そのためには街の学校に通うことが一番だ。ジャン。最後に一つだけ言伝を頼む。マリーにすまないと伝えといてくれ」
そう言って兄は息を引き取った。この時に初めて俺は兄がどれだけ俺を愛していたのか判った。全く愚かしい。
兄が死んで放心状態だった俺を助けてくれたのはマリーさんだった。マリーさんは兄が死んで自分も辛いはずなのに俺を懸命に励まし、兄の残した金を使い、遺言通り俺は学校に通うことになった。兄の言う通り、世界は広かった。同年代で俺より強い人間はいたし、街では女であろうと剣を握る。魔法が使えなくともそれを補うほどの剣の腕を有している人もいた。自分の盲目さを嫌と言うほど思い知った。
だけど、そんな生活は嫌いではない。兄の言う通り世界は広いからだ。まだまだ、俺は兄の遺したレールの上を走っているだけだ。この後、必ずこのレールは途切れる。その後、俺の物語は始まる。その時に兄のためにも俺のためにも世界を見て回らなくては。
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