1人が本棚に入れています
本棚に追加
昔から俺は天才だの神童だの世界一神に愛されているだの、言われていた。始めはよく判らなかった。だけど……、兄の付いて学びだした、魔法。それによって判らされた。兄と俺とは違う。根本的に違う。人として違う。すべてが違う。
やがて俺は兄を蔑みだした。今思い返してもこの時の俺はどうしようもない屑だった。
兄にむかい俺はよく言った。
「そんなことしても無駄だ」
「何を馬鹿なことを……」
「よくやるよ」
「無駄な努力ほど愚かなモノはないね」
などなどなど……。ムカついただろう。腹ただしかっただろう。憎かっただろう……。だけど、兄は一言もそんな言葉を口にしなかった。そのかわり兄はいつも言っていた。
「ただ、お前を守りたいんだ」
鼻で笑った記憶を思い出す。その時の俺を殺したい。いつも、いつも、いつも、いつも俺は兄を下に見ていた。
そして、兄より先に魔法を覚えた。兄は自分のことのように喜んでいた。だけど、その心の奥ではどれほど悔しかっただろう。どれほど無念だっただろう。それを想像することは容易いことなのにこの時の俺にはできなかった。
“兄を抜いた”と感覚的にしか判っていなかった俺は魔法により事実として実感した。そして俺は兄を余計に下に見るようになり辛辣な言葉も数え切れないくらい言った。
「才能がない」
「あんたには無理だ」
「努力は報われない」
「無駄だ」
「それ以上はやめてくれ。俺まで馬鹿に見られる」
そんな言葉を並べられても、兄は魔法の練習をやめなかった。やがて、それは実る。兄が魔法を使えるようになった。それは他の同年代から見ても格段に早いものだったらしい。だけど俺はそれすらも知らなかった。
兄は血の滲むような努力をして人の何倍もの早さで習得する。俺は特に何もせずにその兄の何十倍もの早さで覚える。評価されるのは俺だった。
俺は自分に酔っていた。他人も俺に酔っていた。
最初のコメントを投稿しよう!