そして……

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 そんな状態で客観的に俺を見ていたのは兄だった。兄はこの時になると常々言っていた。 「お前は弱い。お前はそれが判っていない」  俺は全く聞く耳を持たなかった。それどころか兄を遠ざけた。だからだったのか、この頃から兄は二、三日家を空けることが多くなった。それでも俺は兄のことなど気にも止めずさらに兄から離れた。この時の兄は俺をどう思っていたんだろうか。答えはもう永遠に判らない。それは俺の愚かさのせいで。  ある日、兄が一週間以上も帰らない日があった。両親は兄を心配し、夜も眠れない日を過ごしていた。だけど俺は何も思っていなかった。心配することも憤ることも嘲ることも、だ。  十日ほどして兄は村に帰ってきた。ただし全身を包帯で巻かれて。流石の俺もあれには目が行った。両親や兄の友人達は口々に兄を心配していた。だけど、俺はただ罵った。 「自分の実力をよく加味しないからそうなる。自業自得だ」  翌日、街から使者が来た。突然来訪者に村は少し訝しんだが、兄の名を出し、自分は兄の同僚だと名乗った。兄は人払いをして、その女と会った。故に、有らぬ噂が暫く流れた。この時に二人が話したこと今なら分かる。だけど、俺にはこのくらいしか出来ない。すまない、アニキ。すまない、マリーさん。謝ることしか出来ない俺を許してくれ……。  兄の傷が完全に癒えるまで三十日かかった。その間も女性は頻繁に村に足を運んだ。その間も俺は兄のことを気にかけることはなかった。  傷が癒えた頃に女性はまた、村に来た。剣を振っていた兄は女性が来たことをすぐに判り、暫く楽しそうに話していたことを覚えている。村では二人は公認の仲だった。母さんは少し複雑だったようだが。  やがて、兄は元の生活に戻り、暫く家を空けることが増えた。この時の頻度は前の倍くらいだったように感じた、と兄と仲の良かった魚屋の兄ちゃんが言っていた。だけども俺はそんなことにも全く気づかなかった。さらに、兄のやっていたことさえも未だ知らずにいた。
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