311人が本棚に入れています
本棚に追加
男だとか女だとか気にしない。
なのに、やっぱり女には一線おいてしまうオレがいる。
トラウマが簡単に克服できたなら、ナオトだって今頃ハーレムでもつくってるだろう。
あの離れで。
ナオトとのつきあいに、なんの障害もなかった。
いい加減、一人暮らしにも慣れきった冬、オレに有り得ない災難が降りかかるまでは。
深夜。一人、ベットで気持ちよく寝てた。
けど、なんか熱くて、寝苦しい。
目を覚ますと嫌なにおいがする。
何かが燃えているようなそのにおいに体を起こした。
どこから入ってきているのか部屋の中は煙で充満していた。
オレの目だってもちろん冴える。
今日はナオト来てないし、煙草の火がオレの部屋に落ちているはずもない。
とりあえず逃げないとっ。
オレは今、外が真冬なことも、何かを持って出ることも何も考えられなかった。
玄関の扉を開けると、そこは白い煙に埋まっていた。
着ていた寝巻であるジャージの袖で口元を被って、近くにある非常ベルのボタンを押した。
この深夜。すべてが静まり返った中のその音はものすごく響いた。
「火事だっ!!」
オレは叫びながら、近くの扉を叩き、中の住人をたたき起こす。
それぞれの家の扉を叩き続け、いよいよ炎の影が見えてくると非常階段を駆け降りる。
はっきりいって無我夢中。
自分がなにやっているのかもわからない。
とにかく叫んで走って1階までたどり着く。
逃げきったオレのあとを追うように、続々とマンションから人が飛び出してくるのを息切れしながら眺める。
炎がいきなり強く吹き出す。
真っ暗なはずの空が炎に照らされ、あたりはものすごく明るい。
どれくらい待っただろう。
消防車のサイレンが聞こえた頃には、マンションの火はかなり広がっていた。
燃えてしまう。
早く火を消してくれ。
なんて声が方々から聞こえてくる。
オレは何も言えずに呆然とその様を見上げていることしかできなかった。
オレの……家が……。
オレ……、明日からどうすりゃいいわけっ?
何をどう考えていいのかわからない。
そんなオレに声をかけてきた人物が一人。
「葉山っ?」
その声の主は藤崎だった。
最初のコメントを投稿しよう!