女と男

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「私、葉山のこと襲わないから安心して」 何を思ったのか藤崎はそんなことを言う。 「いや、そうじゃなくて…」 「葉山が私を襲うことなんてないでしょ?」 「ない……はず」 言い切れない。 オレ、だから、女にふれられなかっただけで、もしかしたらってこともあるし。 藤崎って、なんか…、思っていたより面倒見いいし、すごく優しいし…。 もしかしたらがないとは言い切れない。 ナオトがいるけど、同居だぞ?同居。 何があるかわからない。 って…、確か藤崎にも彼氏いたはずだし、深く考えることはないのかもしれない。 藤崎もなんか淡々としている。 うん…、まぁ…、断り続ける理由はないな、うん…。 「ならいいじゃない。私も親に連絡入れとく。あと、これ、少ないけど」 藤崎はオレの近くにきて、何かと思えば金を差し出してきた。 オレは思いきり驚く。 「っ!?なんでっ!?」 「なんでって…、葉山の持ち物、なんにもないでしょ?財布も服も」 言われて気がつく。 そういえばオレの財産は…? 携帯や靴どころの話じゃなかった。 「……全部……燃えました……。キャッシュカードも……」 あぁ。そっか。そうだ。 なんにしても厄介になるしかないんだ、オレ。 今のオレには藤崎しか頼る人がいない。 なにこの無力。 「だから使って。後で返してくれればいいから」 その藤崎の気持ちがありがたすぎて。 オレ、情けなくて情けなくて。 藤崎の優しさが、ものすごくうれしくて泣けてくる。 もう、藤崎、すっごくいい女だと思った。 いや、マジ、惚れそう。 なんかずるい。 好きになったら藤崎のせいにしてやろうと思う。 「ご迷惑おかけいたします」 オレはすごく情けないけど、その藤崎が差し出してくれた金を受け取った。 オレの明日はお先真っ暗だ。 ただ一つの希望は藤崎だけだ。 たぶん、オレ、藤崎なら抱きしめられると思う。 もう、強く強く抱きしめて、ありがとうって言いまくりたい。 そんなことして出て行けとは言われたくないから言わないけども。 でも…、なんでだろう? 今、すごく藤崎にふれたかった。 今まで女にふれたいとは思えなかったのに。
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