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いわゆるいじめられっこってやつだった。
幼なじみが女で、それによく殴られた。
意地悪をされることもしょっちゅうで。
小学校へ上がると、女は集団になって襲ってきた。
オレが弱かったんだろう。
よく泣いていた苦すぎる思い出。
他人が聞けば笑い飛ばしてくれそうな気もするのに、かなりのトラウマだ。
他人にはどうでもいいことがトラウマとして残るってあると思う。
あの幼なじみだって、今じゃ女子高生だ。
あの頃は幼なじみより背も低くて体格も小さかったけど、今は絶対オレのほうが成長していると言える。
力だってオレのほうがあるだろうし、喧嘩しても負ける気はしない。
もういじめてこないと思う。
けど……違う。
女にはふれたくないし、ふれられたくもない。
街中でいちゃつくカップルを見ると、なぜか殴りたくなる。
いつかは克服しなきゃなと思いつつも、もう高校1年。
まわりが彼氏彼女と騒いでる。
キスしただの、セックスしただの、そういう話も聞こえてくる。
女と手もふれられないオレが、そういうこといつかはなんて思える気もしない。
オレ、一生童貞だなと覚悟決めていた、一人暮らしにもようやく慣れてきた4月。
桜の下で運命的な出会いを果たす。
高校2年になって、かなり久しぶりに早起きができた。
いつもは遅刻ぎりぎりで学校へ向かうのに、今日はめずらしく早くに家を出た。
のに、もう登校している生徒もちらほら。
部活やっているわけでもないのに、よく毎日こんな時間に学校へいけるなと思う。
オレの前を歩くのは同じクラスの藤崎一鼓だ。
どこかかっこよく見える一鼓という漢字表記に、名前はすぐに覚えた。
席もオレの後ろに藤崎が座っている。
「藤崎、おはよ」
オレは藤崎の背中に声をかけて、その隣に並んで歩く。
ふれなければ平気。
話すくらいなら平気。
まわりが女だらけだと息ができなくなりそうだけど、一人なら平気。
「あ、葉山、おはよ。今日はめずらしく早いんじゃない?授業中寝ていても起こしてあげないよ?」
藤崎はそう普通に返してくれる。
「当てられたら起こしてこっそり答え教えて。藤崎サマ」
「様つけても無駄。っとと。私、先に行くね。ごめん」
藤崎はオレに一言言うと、先を歩く男のところへと走っていく。
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