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「………」
拓はぶすっとした表情で黙り込んでいた。
それもそのはず、何か難しい名前を名乗ったあの女性はあの後拓の家に勝手についてきて、拓の部屋を物色しているのだ。
『適合者様、この絵が描いてある書物は何ですか?』
しかも今日に限って早く帰ってきていた母に気付かれずに、だ。
それは見付からなかっただけではなく、まるでこの女性の姿が見えていないようだった。
『…適合者様?』
「あーもうその"適合者様"ってのを止めろ! 俺には藤崎拓って名前があるんだよ!」
拓はしびれを切らしそう怒鳴った。
しかしその女性は落ち込むどころか、
『良かった、やっとお名前を教えて下さいましたね』
そう言って微笑んだ。
その顔にすっかり毒気を抜かれ、拓は苦笑した。
「拓ー、何かあったのー?」
どうやらさっきの怒鳴り声で母が心配したようだが、
「何でもなーい」
拓はそう答えた。
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