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――むかつく…むかつく…ッ。
夕陽もとっくに消えた繁華街を悠里は無表情で歩いていた。
しかしよく眼を凝らして悠里の顔を見れば、瞳の奥には怒りの炎が燃えているのがわかる。
悠里は男娼婦のようなことをしているせいか、度々ああいう態度をとられることがあった。
それは悠里にとって屈辱でしかない。
そんな相手とは二度と連絡をとらないし、向こうから連絡が来ても応じない。
とにかく早く何処か違うとこに行きたかった。
自然と足早になり、繁華街から人気の少ない路地裏を歩いていると、不意に手首を掴まれる。
眉根を寄せて振り向くと先ほど酒を掛けた男が立っていた。
「まだなんか…」
「調子に乗るな?それはこっちの台詞だ」
悠里が言い終わる前に、男は荒々しい態度で悠里を見る。
「人が優しくしてるときにおとなしく言うことを聞いとけばいいんだよ」
掴む手の力が徐々に強くなり、悠里は痛みに顔を歪ませた。
壁ぎわに押しつけられ、四方を男と壁に囲まれてしまい、逃げ場がないと悟る。
「……ッ…」
体勢的には不利でもこの男には屈したくなかった。
男を見上げる目線をきつくして相手を睨む。
「この状況でよくそんな顔が出来るな」
楽しそうに喉を鳴らして笑うと男は悠里に顔を寄せてくる。
唇を奪われそうなのに気付くと慌てて男の顔を手で押さえた。
掌に感じる男の唇の感触に、背筋に悪寒が走る。
悠里は他人とキスをするのが最も嫌いだった。
男とセックスするときも、女とセックスするときも絶対に口付けを交わさない。
ましてやこんな男としたくはなかった。
「……やめろ」
顔を寄せてくる男を必死に押し返して距離を置こうと抵抗する。
しかし体格差か、徐々に距離が縮まる。
「……くそッ」
力のない自分自身に対して悠里が悪態をついたときだった。
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