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「……ッ…」
あられのない声を上げ過ぎた悠里には既に声を出す気力はなかった。
それでも自身からは僅かに白濁が流れ、彼が達したのを知らせる。
悠里と身体を重ねてた男が汗で額に張りついた髪を優しく退かした。
乱れた息を整えると途端に肌を合わせる男に嫌悪感を抱いてしまう。
「……退いて」
感情の籠もらない声で言うと相手を押し返して相手自身を自分で抜く。
蕾からとろりと零れる白濁に男がゴクリと息を飲む音が聞こえた。
「もう一回いいだろ?」
引き下がらない男を見据えながら壁に掛けられた時計を指差す。
「時間切れ。」
「金はもっと払うから」
3時間はこうして肌を合わせていたのにまだ足りないのか。
引き下がらない相手にイライラしながら悠里はきっぱりと言った。
「しつこい。まだ駄々捏ねるならもうやらない」
「ゆう~」
ゆう。
それがセックスの最中の、
春を売るときの悠里の仮の名前だ。
足で蹴りながら男をベッドの上から降りるように催促すると渋々降りる。
揺れる男のビール腹を見ながら右手を差し出すと無表情で言った。
「3時間4万。フェラも含めて5万」
「相変わらず高いなぁ」
「文句あんの?」
サイドテーブルに置かれていた煙草に伸ばし掛けた手を空中で止めると、目線だけを男に向けてじろりと睨む。
その顔に男は楽しそうに笑った。
笑うと一緒に腹が揺れるのが不愉快だ。
「ないって。はい、今度はいつ会えるんだい?」
財布から万札を5枚取り出すと悠里に近寄り、手に握らせる。
それを見つめると床に散らばっていた衣服の中からズボンを見つけだし、ポケットに無言で突っ込んだ。
ついでに下着をとると手短に身なりを整える。
「しばらくは客でいっぱいだから無理」
それだけ言うとサイドテーブルの煙草を手に取り、男の横を通り過ぎる。
扉を開けて部屋を開ける直前、振り向いて男を見ると笑った。
「じゃあな」
男の反応を見る前に部屋を出る。
見なくてもどんな顔をしているか想像出来る。
ふいに見せた笑顔にいやらしい顔をしているに違いない。
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