362人が本棚に入れています
本棚に追加
あの時のことは今でも覚えている。
街角を歩いているときだった。
宛もなくふらふらと歩いていると後ろから声を掛けられる。
『ねぇ、君。一人かい?』
ゆっくりと後ろを振り替えると30半ばの眼鏡の似合う男が立っていた。
『そうだけど…何?』
知らない男に訝しげに相手を見ると人好きのしそうな笑みを称えて何でもないように言った。
『今から私とデートしないかい?』
『はッ?』
男の突拍子のない言葉にあまり表情を変えない悠里も驚いたように瞬きを繰り返す。
『君と一緒に居たいんだ』
『………。』
その言葉は甘い毒だった。
気が付けば悠里は男の後をついていき、初めてを相手に差し出した。
セックスの最中はどんな男も悠里に優しいし、どんな女も悠里に甘える。
それが悠里には嬉しかった。
最初にセックスをした男は情事の後、何事もないように万札を数枚、悠里に手渡した。
『何これ?』
『これが欲しかったんだろ?』
最大の侮辱だった。
つまりこの男は悠里が金が欲しくてついて来たと思ったのだ。
『どうも』
金を無造作にポケットに突っ込むと悠里は男の顔も見ずにホテルを飛び出す。
その瞬間、自分の軽薄な行動に嫌気が差した。
人恋しかったからといって、知らない男の後をフラフラとついていき、剰え寝てしまったのだ。
確かに金目的と思われても仕方ないことを悠里はしている。
そして気が付けば悠里は金と交換に男と寝るようになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!