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地下へと続く階段を降りると、司堂 貴成は目の前に現れた扉を開けて中に入った。
扉を開けると同時に聞こえてくるパンクロックを聞きながら中に入り奥に進めば、若い男女の視線をさらう。
シェイカーをふるバーテンダーのところまで行くと彼は愛想良く話し掛けてきた。
「お久しぶりで。貴成様。」
バーテンダーの名は朝比奈 啓介。
年齢は貴成より二つ三つ下で対して変わらないが昔の職業の名残か、貴成には今も敬語を使って話す。
「あぁ、相変わらずここは人気だな」
貴成も朝比奈に気さくに話し掛けながら音楽に合わせて踊る彼らを見る。
「いつものでよろしいですか?」
朝比奈の問いかけに軽く頷けばシェイカーをテーブルに置き、背後の棚からテキーラを取り出して貴成の前に置く。
カウンターになっている席に座ると喉を鳴らしてグラスの中身を空にしていく。
30を越えた男には普通こんな場所は似合わないのかもしれないが、貴成はここの雰囲気に自然と馴染んでいた。
仕事帰りなのかスーツにノーネクタイでボタンも二つほど外した格好は大人の色香を醸し出していて先ほどから女性がチラチラとこちらを見ている。
最も、当の貴成はその視線をまったく気にした様子はないみたいだが。
一人でテキーラを飲んでいると再び扉が開いて人が入って来るのが見えた。
なんとなくそちらに眼をやった貴成は隣にいる朝比奈に聞こえないほど小さく息を飲んだ。
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