釣り糸―彼の存在その1―

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私が彼を始めて見たのは、私が二十歳のときだった。 そのとき、私はまだ陸軍にいた。 階級は軍曹。 彼は、私の軍が潜伏している、もう滅び荒んでしまった廃村にいた。 このときの私たちの状況は、 一つの戦が終わったばかりで 比較的穏やかな日を過ごしていた。 私たちはテントを張り、 各自、数少ない休息を楽しんでいた。 そんなときだった。 私は、つりが趣味で今日もテントから幾分離れた入り江のほうで釣りをしていた。 まあ、釣りをするといっても、私は釣りをするその時間が好きなだけで、 竿を立てるとそのまま、持ってきた読みかけの本を読み始めた。
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