釣り糸―彼の存在その1―

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ふと、 私の意識が本からはなれた。 釣り糸に視線を向けたが、 引いている様子はない。 そして、自分と反対の岸に目を向ける。 人がいることに、このときになって私は始めて気づいた。 彼はじっと、私のほうを見ていた。 私は、驚いて思わず身を引いた。 いくら休息だからと言っても、私は軍人だ。 もし人が来れば、絶対に気づくはず。 そうできる自信があったし、そう訓練を受けてきた。 しかし、 このときの私は本当に彼の存在に気づかなかった。 私は、警戒して彼を見つめかえす。 しばらくの間、そのまま時が過ぎた。
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