捨て犬―彼の存在その3―

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ダンボールを持ち上げたとき、 「あっ」 と声がした。 声のした方を見ると、 男が立っていた。 白いシャツに黒のジーンズをはいて、 赤っぽい髪の色をした少し幼い顔立ちの青年。 それが彼だった。 彼は、片手にビニール袋をさげていて、 ちょっと悲しいような、 でもうれいいような 複雑な表情で私を見ていた。 ああ、そうだ。 さびしそう に彼は立っていた。 「その犬、君がもらってくれるの?」 彼は黙って見上げている自分にそう聞いた。 「え?・・・ああ、いや、 自分は飼わないよ。 ただ、ここ危ないから」 自分は、視線を犬に戻し、 ダンボールを持ち直した。 「そっか、ありがとう」 「? なんで、礼を言う?」 「あ、いや、別に・・・」 ただ、なんとなく・・と、最後の方はほとんど聞こえずに 彼は困ったように笑った。
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