捨て犬―彼の存在その3―

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自分はひとまず土手からそんなに離れていない、 空き地に場所を移した。 ちらほらと不法投棄されたごみが散らばっている。 犬は警戒心が無いようで 自分が手を差し出すと鼻を押し付けてきた。 そのまま、頭をなでてやる。 犬は何かほしそうに、 自分の手の平をなめた。 自分は犬に視点を置いたまま、言った。 「それ、あげたら?」 「えっ?・・・・・う、うん」 彼は、自分の隣にしゃがむと ビニール袋からドックフードを取りだした。 やっぱし・・・ 「た、食べるかな・・・?」 おそるおそるという感じに 彼は、犬のそばにさしだした。 犬はにおいを嗅ぐとほどなくそれを食べた。 「た、食べてくれた」 彼は、うれしそうに笑う。 その顔がより童顔を幼くさせていた。 ふ、と視線があった。 気まずくなってすぐ離した。 変な間が生まれる。 それが嫌で自分は聞いた。 「この犬、飼うの?」 彼はとたんに困った顔になって言った。 「・・・飼いたいけど、飼えないだろうな」 「家がマンションとか?」 「いや・・・・・まぁ、そんな感じ・・・」 「そう」 「・・・・・」 会話が終わってしまった。 普段なら、こんな間がどうしようもないくらいにいたたまれなく感じてしまうはずなのに、 自分は今のこの空気を 悪くない と思った。
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