その1

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「田中くん、ごめんなさい」 申し訳なさそうに、海崎は頭を下げた。 「好きな人が居るってこと…?」 田中に訊ねられ、頭を上げた海崎は、視線を落とした。 「ううん、居ないんだけど…」 海崎は田中に向かって、小首を傾げながら問うた。 「田中くん、たっくんに勝てないでしょ?」 「…たっくん?」 田中は眉をひそめた。 男の名が出てきた、と不満なのだろう。 海崎は気付かないのか、笑顔(あの笑顔に男はやられるんだろうな)で続けた。 「うん、たっくんに勝てないでしょ?」 「…そんなの、分かんないじゃん」 【あああー田中駄目だよー】 俺は勝手に慌てていた。 とにかく、二人より先に教室へ戻ろう。     ・・ そして、彼女に伝えておかねば。
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