プロローグ

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 突然の雨。気温は十分低いのに、雪ではなかった。  ずぶ濡れの私は傘も持たず玄関前で立ち尽くす。 「……は?」  垂れ落ちる滴が目に入って、よく見えない。  見間違いかな。はっと我に返って目を擦る。  でも目の前は何一つ変わらない。ということは、これは現実だ。 「あなた、誰?」  私は恐る恐る尋ねた。私の家に向かって突っ立っている一人の男。  その男はゆっくり――まるでスローモーション再生を見てるかのように――振り向いた。 「わっ……」  すっごい美形。それこそ雨に打たれているのも絵になっているほど――。 「……俺?」 「あんた以外誰がいるのよ」  拍子抜けの声で聞き返され、私は思わず突っ込んだ。 「お前こそ誰」 「……ここの住人ですけど?」  すっごいかっこいいけど、すっごいムカつく。何こいつ、馬鹿? 「あー、そっか。わりぃ」  男は再び私に背を向け――家の敷地内に入った。 「お邪魔します」 「ちょっと!」  私は男に飛びかかり、肩を掴む。 「何この新手の不法侵入。警察呼ぶよ?」 「いいよ、呼べば?」  あまりに冷静な返しに言葉に詰まる。  いやいや、相手はただのちょっと強気で馬鹿な犯罪者。怯むことないよね! 「俺、追われてんだ。ちょっと匿ってくんね?」  冷たい冷たい、晩秋の雨。これが、私達の出会いだった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!