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―― AD2086.5 日本 いわき市平地区 ――
「お願いです! どうか、どうか私の家族を助けてください!」
「あそこにはまだ息子が残っているんだ! 頼む!」
「父さんは、父さんは無事なの!? ねぇ!」
軍の野営地入り口に詰め掛ける人々が、悲痛な訴えの声を上げている。
その声にも銃を持った兵士は、その表情も崩さずに立っているだけであった。
「あんた達軍人だろ!? 頼む! あの街を解放してくれ!」
「黙ってないで何か言ったらどうなんだ!?」
怒りと悲しみの声が響く中、上官らしき男が民衆の前に姿を現した。
軍人は握り締めたメガホン越しにこう語り始める。
『皆様どうか落ち着いてください!
我々は、現在人質救出の策を練っているところです!
一人でも多く安全に救出するために、何卒ご協力をお願いします!』
だがその声も空しく、訴える声は止む事はなかった。
「協力って……もう3日も経っているんだ!」
「いつもあんた達は遅すぎるんだ!」
だがその軍人は民衆に背を向けると踵を返し、仮設の野営地の建物へと戻る。
これ以上の対話は無駄だと思ったのだろうか。
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