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古くから残る煉瓦道で全体がセピアに見える古い町並み。
シンメトリーな街灯から漏れる光はとても温かみがあり、来る人来る人を和ませます。
そんな印象のこの小さな町は、人工もさほど多くなく、その雰囲気からか民は皆穏やかでゆったりとした生活を送っていました。
そしてその小さな町の片隅で、アンティークショップとは名ばかりの小さな小さな兼喫茶店がありました。
(今日も、暇……だなぁ)
そう胸の裡で愚痴るマイは、紅く大きな瞳を何度か瞬かせて辺りを見渡しました。お店の中には、老夫婦が一組。いつもお昼過ぎに来てくれる常連さんです。
(いいなー…あーゆーの……)
コーヒー一杯をとても時間をかけて飲み、マスターの作ったクッキーを噛りながら幸せそうに会話をしているその老夫婦がマイは羨ましくて堪りません。
(幸せそうだな……もう、ずっと長い時間を一緒に過ごして、かけがえの無い存在なんだろうな、お互い……)
マイにはそんな相手がいません。
一緒に暮らし始めて一年たつマスターは、マイを大事にしすぎて外には決して出してくれません。
「外は危ないんだよ。何に襲われるかわからない」
そう言って白髪混じりのマスターは、いつも優しく頭を撫でてくれます。
「嬉しいけど……」
そう言ってマイは俯いてしまいます。
だって外が見てみたいの。
見えるのは、お日様の光をいっぱい浴びて笑いながら行き交う人々。
いつも窓越しにそれを見て、いつか自分も………そうマイは思っていました。
「マスター、ご馳走様」
「ありがとうございます。またいらしてくださいね」
老夫婦がコーヒーを飲み終えて帰っていきます。マスターがにこやかな顔で入り口のドアまで送りました。週に2、3回来るから、次にあの夫婦を見るのは明後日くらいかな……見送りながらマイが思うと、カランカランとまたドアが開きました。
新しいお客です。
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