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昇竜にとっても同じだった。夜空を見上げると、モグラのように奥深くに隠れた切ない想いが、月明かりと共に表れ、心に突き刺す。
そう、今日はあの日から、ちょうど七年なのだ。
さっきまで「おおしいつくつく」と、夏の終わりを惜しんでつくつく法師が鳴いていた。
つくつく法師の命がこの世に宿って、華々しく空へと飛び立つまでの月日が流れたのだ。
そんなことを思うと、昇竜は胸が苦しくなった。
このセミたちの命が終わるのと同時に、この切ない思いも、『あの人』も自分の中から、消えてしまうのではないかという奇妙な感覚に陥ったからである。
部屋に戻ると、なにやらクリーム色の毛に大きな黒目の愛犬『チー』が何かを目で訴えていた。
「そうか…また靴下が欲しいのか?」
昇竜は仕方なく、まだ履いていない靴下を投げてやった。
チーは昇竜の靴下を集めて、自分の寝床に隠すのが日課なのだ。
「おかげで、履く靴下がなくなっちゃうよー。」
そう言いながら、チーが戻っていくのを横目に、今日友達に安く売ってもらったDVDレコーダーが床に転がっているのを思い出した。
昇竜は、持っていた灰皿を机に置き、その機器を取り付けることにした。
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