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ひどい雨だった。
数年に一度あるかないかくらいの、地上のもの全てを押し流すかのような豪雨。
命まで奪っていきそうな雷は一晩中鳴り響き、魔導王国ラティニアの人々はみな眠れない夜を過ごしていた。
はずだったのだが……。
「――うーん、よく眠れた」
少年は大きく伸びをして、弾むようなリズムでベッドから降りた。
「どうだ? 新しい家の感想は」
キッチンの方からは、華やかな炒めものの音に似合わない野太い声がした。
「おはよ、父さん。新しい家、最高だよ」
鼻歌混じりにキッチンに向かう少年。
そこで少年は、フライパンを操る壮年の男の首に、じゃれあうように後ろから飛びついた。
「おいおい、危ないぞ。遊ぶなら後にしろ」
そう言ったものの、少年の体重が首にかかっても男は微動だにしない。
かなりの偉丈夫である。
さらによくよく見てみると、男が片手で操るフライパンは料理店で扱うような巨大なものであった。
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