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薫が訊くと、刑事は舐めるように薫を見た。 「探偵――変わったご職業ですね。ま、いいですが、井本さんでしたね。昨日の十五時頃、あなたもその場所に?」 「はい。薫さんは沖縄に観光で来たばかりで、梨絵と一緒に案内をしてました。でも、その帰りに誘拐なんて」 落ち着き始めた彼女の顔は青白い。その返事が刑事をさらに不機嫌にさせている。三度もため息をつき、彼女を見下すように言った。 「観光案内……わかりました。まだ誘拐事件と決まった訳ではないですが、父親が参議院議員ですからね。慎重に調査をしていますので、誰にも話さないようにお願いしますよ。わかりましたね? では、私も忙しいので失礼します」 刑事はそう言い残し、足早に立ち去った。その場に残された彼女は、雲一つない空を仰いだ。あの梨絵が誘拐された。それだけを心の中で復唱していたのだ。 「真弓。どう思う?」 「え? どうって……梨絵が誘拐されたんじゃないの?」
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