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「凄い」
ボーカルの娘が拍手を贈る。その音に我に帰ったように二人が拍手をした。
「クロスロード、この曲の名前」
気だるい腕を何度か振って、弦を触るように置く。
「さっきと雰囲気ぜんぜん違いますね」
「独特の緊張感があるね。怖かった?」
「…はい」
ボーカルの娘の素直な感想に少しだけ微笑ましく感じながらゆっくりと解説をしようと口を開いた。
「この曲にまつわる話さ、この曲を作った人はギターが下手くそだったんだ。だからギターなんてやめて真面目に畑を耕してくれなんて言われていた」
「下手くそだったのに、こんな難しい曲を作ったんですか?」
ギターの娘が驚いたような声をあげる。俺はそれに頷くと解説を続けた。
「家族も恋人も投げ捨てて悪魔にお願いしたのさ。ギターを誰よりも上手くなりたいってね。そしてこの曲が出来たらしい。クロスロードは悪魔と出会った場所なんだそうだ」
そんなうんちくを感嘆の声で聞き入る三人。辺りは既に暗闇に包まれ始めている。
「すっかり暗くなってきたね、そろそろ帰らなくて大丈夫かい?」
俺はギターケースの中の『気持ち』をまとめて財布の中にしまいながら切り出す。
すると一人、ボーカルの娘が伺う様な仕草を見せた。
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