1人が本棚に入れています
本棚に追加
「…あ、あのっ」
ほんの少しだけ強張った声が噴水の水を叩く音に打ち勝って耳に届く。
俺は顔を上げて真っ直ぐ少女を見据えた。僅かに高揚したかの様な顔色。しかし不安を感じさせる表情。俺は静かに言葉を待った。
「――――っ」
口許が動いた。小さくて聞き取れないぐらいのか細い声で。
俺はギターをケースに仕舞い込み、肩に担いだ。
「キミ、可愛いね」
再び少女を見るとその言葉にボッと茹で上がったように赤面しているのがわかる。
「ああ、あのっ…ええっとっ」
慌てて取り繕うとしても既に発した言葉は取り消せない。
その仕草が妙に可愛らしく見えて…たぶん重なってしまったんだろう。
あの時のサクラに。
悪魔が本当に居るなら、奴はきっと俺に夢を見せているんだ。
そして、こんな感情を抱いた俺をせせら笑っているに違いない。
「良ければ、もう少し話し相手になってくれるかい?」
俺の提案に少女は控えめの返事をした。
最初のコメントを投稿しよう!