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人は機械になれるかもしれない。呆れ返る持論を展開し始めたのはつい最近だ。日々の生活に追われて疲れ果ててカビ臭いベッドに転がり込んで…俺の世界<日常>はそんなクソッタレな毎日だ。
生きるために働くのか? 働くために生きるのか? そんな素敵な命題を俺でも考える程俺は社会の家畜に成り下がっていた。
埃が舞うのを眺めながら振り上げた指先はオンボロオーディオの「再生」ボタンを押していた。古びたGから始まる弦を弾く音は力強く繊細だ。ブルースは黒人が奴隷に作り上げた娯楽だが、その内容は決して陽気なものばかりでは無かった。だからこの音がいつまでも手放せないのかもしれない。
俺にも夢があって、思い描いていた日常があった。それをまるでパズルでも組み立てるような毎日だと、いつかそれは額に飾れるほど素晴らしい物になるだろうと信じて疑わなかった。
子供だった内が幸せだったのかもしれない、最近はそう思うようにしている。
何故なら俺の欲しいパズルは永遠に完成しないのだから。
つまりは、その時点で破綻してしまったのだ。
そんな懐かしい思い出をぶち壊すように電話の音が音楽に被さる。俺は3コール目で起き上がるとスピーカーの音を絞って受話器を取り上げた。まず耳に飛び込むのは街中の騒音。微かに聞こえる街頭ビジョンの音から空ヶ三原駅の北口だと理解した。
『あー起きてたっ』
ハスキーな女の声は明るくシャガレた声が耳に痛い。
「…起きてる、なんだよ」『ご機嫌だねぇ~、ナッキー今度バイトの休みいつよ?って言うか次の日曜日空けて欲しいんだけど…』
一方的な言い方だがコイツがこういう時は既に決定事項。俺に断るタイミングを与えまいといつも通りの押し問答。飽きずに、六年も続けている。
その努力と熱意には全くもって頭が下がるが彼女――野一色真姫は今日も変わらず言葉を投げる。
『それでね久しぶりにみんな集まって美那也公園の広場でゲリラライブやろうって話になってね』
「うん、いいね。それで?」
コイツは当然わかっている答えを何度も覆そうとする。
『もう回りくどいことは言わない…ギター弾きたくないのわかってるよ、でも聞きたいんだっ! 今のナッキーがどんなギターを弾くのか』
「真姫は買い被りが過ぎるよ。もう五年もまともに弾いてないんだから」
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