思い描くパズル

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彼女は今のチームを組んでもう四年になる。そこそこにデカイ山も踏んでマイナーなりにも人を引っ張っている紅一点のボーカル様が入学したての高校時代にたまたま見てしまったコピーバンドに熱を上げて今も追い掛けてる。 『ナッキー。あたしと一緒にセッションしよう』 俺の言葉を全く無視のその声は雑踏に阻まれる事もなく真っ直ぐ俺の胸に響く。 「ばーか。今のメンバーが聞いたら泣くぞ」 『あたしは、本気だ』 ため息しか出ない。彼女は真っ直ぐすぎて融通が利かないことがある。 別に仲間意識や彼女の気持ちが問題なのではなく、もっと俺の中の根底に有るものがその気持ちを否定している。 「答え、わかってるだろ?」 『先輩、ですか?』 「…」 何も言えないし何も言わない。よくある話だろ? それが好きなのではなく、それを共有するのが好きだったんだ。だからさ…。 『…あたしじゃ、ダメですか?』 電話先が重い口を開いた。 「ハハ、愛されてるな俺は」 『茶化して誤魔化すな』 「無理だな」 『何でだよ』 「それだけか? なら切るぞ? じゃあな真姫」 何か言いたげだった言葉を遮るように受話器を落とした。 乾いた音の先は孤独を歌う静けさだけが残る。その無音に溜め息の音、間違いなく俺から洩れた音。 気分を入れ換えよう、閉め切った窓を半分だけ開ける。六階の窓から見える景色と肌寒いが街の匂いを乗せた風。とたんに感じる目の奥の痛みに慣れると街の奥に見える薄桃色の公園が視界にはいる。 ――先輩ね。あの色はなんとも言えない気持ちにさせる。アイツの名前はこの季節になる度に強く鮮明に浮かび上がるが二度と逢えないことは自分でもよく理解しているつもりだ。しかしそれはまるで夢物語のように姿を消してしまった。 六年前の音楽祭のステージ俺逹の二曲目、ドラムに合わせてギターがメロディーを合わせた瞬間、それは打ち合わせも無しに飛び込んできた。 メンバーのサプライズか? 一瞬、全ての動きが止まった。 「私に歌わせて」 振り返ったその顔は今でも実に印象的だった。俺を含む全員がその一瞬で魅了されたんじゃないだろうか? 観客がざわつき始める。事態が飲み込めない…わかっている。自分達でさえ未だによくわかっていない。 俺がゆっくりとメロディーを取り始めると次第にざわつきが収まっていく。
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