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メンバーの視線が、飛び込んできた彼女の視線が俺のギターに集まって…視線で合図を送った。
口元がつり上がって、メンバーの誰もがその空気に興奮し始め、タイミングを…合わせたっ!
『『GO!』』
ドラムが爆音を立てる、リズムペースは次第に加速していき、ベースがそれを追いかけるように重低音のリズムを刻んだ。
「ついていけるか?」
ステージでも二人しか聞こえない小さな会話に彼女は親指を立てて応えた。
正直な話、彼女の声も歌も自分等の知るそれとは一線を明らかに越えていた。想い描いていた以上を俺達に見せてくれた。いや、彼女が飛び込んできたその一瞬で俺は惚れていたのかもしれない。
気が付けば僅か四曲の俺達に与えられた時間で、オーディエンスは場外を巻き込んでひきり無しの歓声を上げている。
無名の学生コピーバンド風情が体験する最初で最後の熱気。バンドを組んだ奴等なら誰もが想い描いていた夢物語の一欠片。
全く、とんだサプライズだ。
そして全ての曲目が終了して、大声援の中流れる汗もそのままに全員が舞台袖に隠れる。
言葉は要らなかった。いや、言葉に出来ないと言った方が正解かもしれない。ただ誰もが満ち足りていた。ゆっくりと息を整えて余韻に酔いしれる。
暫くして彼女がゆっくりと声を上げた。
「ゴメンっ!いきなり飛び込んじゃって」
まだ興奮から覚めないのか頬はまだ赤い。
「いや、いいって。つーかアンタすげーよ。リハ無しで完璧に合わせて」
ドラムの榊原は人一倍汗をこぼしながら笑った。
「一曲目聴いたときに、我慢できなくなっちゃった」彼女はハニカミながら笑うとベースの矢野は苦笑いしながら「スゲー度胸、俺には無理っ」と呟く。
「後ね、ナッキー」
突然俺が呼ばれた。彼女とバッチリ目が合うとなんとも言えない気恥ずかしさに教われたが、視線は外せなかった。
汗に濡れた首が、うっすらと赤い頬が、背中まである黒髪が俺の視線を魅了した。
「ナッキーのギター…あれ考えたのナッキー?」
彼女の質問にハッとする。つまりは俺のアレンジ…と言うかアドリブに当たるコードを指しているんだと理解した。
「あ、いや、すまない。ちょっと調子にノリ過ぎた」
「ううん、あれ、いい。ちょーいい」
と正に意外な反応に戸惑う。
「そうか」
実感が湧かない。今はそんなことより、ただ…。
「すっごい楽しかったー」
彼女が代弁してくれた。それに俺達三人が力強く頷く。
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