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王子は一通の招待状から目線を離し、パサリと灰白い石の台に投げ置いた。
「身の程知らずか、余程ご自慢の姫君か‥
花婿探しのお誘いとは、馬鹿にされた気分だ」
背凭れにやたら凝った模様の陶器が嵌め込まれ、同じような刺繍が入ったふわふわとした腰掛け部分。金の猫足のベンチ型のソファーにドッカリと座り脚を組むと、
招待状を差し出した国の情報を、王子は頭の中の図書館から引き出した。
†
招待状のその国は、王子の国と同等の豊かな国。
王が独裁政権を執っていて、宰相以下が不満を抱えてると専らの噂。
世継ぎの王子はおらず、姫君が三人。王妃は末の姫君が小さな頃に病死され、以来後妻は疎か愛人も居ない、頑固でつまらない男がその国の王だ。
上二人の姫君は自国の貴族と婚姻済みで、幾つか有する城の内の一つを王から与えられて住んでいた。
今回の招待状は、末の姫君の誕生日で婚約者を探すパーティーを開くといった主旨のもの。
†
「どうやら白羽の矢が俺にも当たった様だな。」
王子の国が国だけに幅広い交流から、件(クダン)の国の噂を聞いてはいた。
年老いた王様が、それはもう可愛がっている末の姫君。
姉姫達の手前、国を全てやる事は出来ないが、1番広い領土を彼女に相続させるとか。
野心家の王子達が戦わずして国が手に入りそうなその状況。
舌なめずりする勢いで下品に話していたのを、王子は呼ばれた夜会の会場で小耳に挟んでいた。
末の姫君自身も聡明で美しい少女と専らの噂で、だから余計に王子達がはしたなく騒ぎ立てる。
「退屈凌ぎにはもってこいか。
ここのところの夜会の騒ぎを鎮める為に、小煩い奴らの鼻っ柱を折りに行くのもいいな」
カツカツと
よく歩く獣道の様な、狭く限定された場所だけが沈んだ絨毯を踏み締めて、王子は父王に報告する為に自分の部屋を出た。
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