招待状

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代々続く由緒正しい家柄。 政治経済の感覚が冴えた歴代の王。 格式高く決まり事に縛られた生活は、身動きの取れない重い鎖。 常に高みを目指す事を強要され、意見など碌(ロク)に聞き入れられない。 そんな、厚いプレッシャーとガチガチに縛られた決まり事だらけの退屈な日々が、この国の王子の運命(サダメ)。 けれど運の良いコトに、 ‐しっかりとした自分を持たない‐ 大人しい両親のおかげで、 ‐自分をしっかりと持った‐ 王子は上手く言いくるめて好きに生きてきた。 勿論、 家臣の反発を買わない節度の有る自由だけれど。 「父上、招待状の件はお受けしようと思います。」 「あ、そ。どの招待状の話しかな」 王子が父王の執務室に入った足で用件を述べると、おっとりとした返事が返ってきた。 この父王は、書類を捲る仕種もおっとりとしていて、とても優雅だ。 「姫君の誕生パーティーのお誘いです。 花婿捜しも兼ねているとの事なので興味が湧きましてね。 好奇心半分、この国の王子に相応しい器の持ち主の姫なら、花嫁候補として押さえておこうと思いまして」 「そう。お前が撰んだのなら間違いはないだろうね 気をつけて行ってらっしゃい」 重要書類に丁寧にサインして、こしこしと煩い位念入りに判を捺す父王は、まるで赤の他人事に素っ気ない物言い。 だがこの父王なりに心配している事は言葉尻に感じるので、王子が腹を立てる事は今までも、これから先も無い。 「ありがとうございます。 早速、姫君へのプレゼントや新な衣装を手配します。馬車や護衛隊は自分の眼で選出致しますので、後ほどリストを父上にお持ちします 予算確保の程お願いします」 口許に微笑を浮かべ頷く父王。こんな気の弱そうな様子だが政治感覚は抜群で、無理に我を圧そうとする家臣には‐決定権は自分に有る‐と主張、書類と判を持って部屋に閉じ篭り、徹底抗戦する頑固さも兼ね備えている。 色々な意味で尊敬に値する父王に、王子は礼を言うと執務室を飛び出した。  
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