Chapter 3 -Intrusion-

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 でも、喋らないのは人見知りの所為だとしても、笑わないのは何でだろう。  さっきから、クリスちゃんの表情は不機嫌そうなままで、一向に変わる気配がない。  笑えば可愛いとは思うんだけど。 ――決して変な意味じゃないからな? 「うーん、遅いって言ってもね……私達は、これからやらなくちゃいけない事があるんだ。だから、どっちにせよ家に帰るのは遅くなるぞ?」  頑として動こうとしないクリスちゃんを、必死に宥めるイルクさん。  こうして見ると、強情な妹に手を焼く普通のお兄さんって感じがするな。 ――お兄さん、か。  …………  …………………… 『兄、さん……。痛い……よ……』  瓦礫の山に死体の山。  壁は血糊で彩られ、床は臓器で装飾される。 『大丈夫だ! 絶対に父上が助けて下さるから!』  血が、止まらない。  止まらない、止まらない。  止まらない、止まらない、止まらない、止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない。  トマラナイ。  抱き締めた温度が低くなって行くのが、手に取る様に分かる。  小刻みに震えている。呼吸も荒い。もう、手の平どころか全身が真赤だ。  今はまだ安全だけど、何時見つかるか分からない。  かと言って、移動するのも危険だ。 『ちち、うえ……はは、うえ…………』  譫言の様に、繰り返す。  その身体を、優しく、父上の様に抱き締める。  きっと、きっと見つけてくれる。  大丈夫だ、安心しろ。  兄さんが付いててやるから、安心しろ―――!  …………  …………………… 『二人共! 無事かっ!?』  ああ、やっぱり、来てくれた。  何時も頭を撫でてくれる、優しくて大きな手が、僕達を包み込む。 『僕は大丈夫です! ……だけど……セルアが!』 『…………くそっ、早くステラの――――――ごっ!?』  アレ?  ドウシタノ、チチウエ?  ナンデ、ムネガアカイノ? 『ノー……ク………………』  ナンデ、タオレテイルノ?  ナンデ、ナミダガナガレテイルノ? 『うあぁぁああぁあああぁあぁああああぁぁあああああぁあああぁああぁぁああぁああ!!』 ――瞬間、世界は光に包まれて。
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