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歩を進めれば、距離は詰まるもので、大学まで後少しの所に至る。
ずっと考え事をしていたせいか、会話もなく、時間もあっという間であった。
隣を歩く菖蒲をチラッと見る。
何を考えているのかさっぱりわからない無表情。
俺の視線に気づいたのか、真っ直ぐ前を見ていた顔がこちらを向く。
「何?」
「いや」
「そう」
とても短いやり取りである。
別に俺はこいつと会話が無いのは気にしない。
元から口数が少ないということもあるが、この何気無い雰囲気を楽しんでいるようにも感じる。
こいつの性格上嫌なら一緒に歩いたり、こうして隣にいたりしない。
「さて、お目当ての大学様に到着だな」
「…………」
無言で見つめてくる菖蒲。
「何だよ」
「いや」
「そうかい」
言いたいことを言わないのは、それは本当に言いたいことではないと俺は思う。
こいつと一緒にいてさらに思い知った。
「こっち」
「あいよ」
事務局に向かう菖蒲を追って歩く。
特に楽しくも悲しくもない。
言い直せば複雑である。
「俺も…決めないとな…」
空を見上げながらそう呟く。
感傷にひたる時間はたっぷりある。
でもたっぷりあるからこそ溺れないか心配である。
「こんなかっこつける前に泳げってか…」
そして入り口から静かにこちらを見ていた菖蒲の元に向かう。
俺にだってきっと出来る。
静かに己に言い聞かせながら。
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