第一章 バイト

22/22
前へ
/35ページ
次へ
手続き自体は簡単なものだった。 提出の書類を出しただけである。 先程少し伺ったのだが、ここの学長は祖父の友人で、学部長は祖父の教え子だそうだ。 どうにもコネがありすぎる。 まぁコネというものはあるなら使うに越したことはない。 別に卑怯とは思わない、それも財産の一つである。 所有物やお金と同じで、ある奴は恵まれている。 無い奴は恵まれていない。 ただそれだけである。 なので休学ぐらいちょちょっとできそうである。 そして事務から帰ってきた菖蒲を確認し、椅子から立ち上がる。 「終わったのか?」 静かに頷く。 後悔の色は伺えない。 寧ろどこかすっきりとしている。 「そっか…んじゃま、確かに見届けましたよっと」 そう言いながら携帯のカメラで菖蒲を撮る。 菖蒲はそれに何の抵抗も見せなかった。 「証拠写真?」 「ま、そんなとこだな…」 携帯に保存を確認しつつ返答する。 「忘れちゃダメよ、私も忘れないから…」 そう言い残し、しっかりとした足取りで事務棟をでる。 「おう」 旧式の携帯をたたんで、無造作にポケットに突っ込むと、菖蒲の後に続く。 普段の小さな背中が、大きく見えてしまうのはどういう理由か。 本当に知らないわけではない。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加