一章 大佐と少佐

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       一 この世界を席巻した大規模な戦争より、実に五百年という月日を経験した現在。 当時、惑星そのものを破壊しかけた争いは人に住む土地を限定し、今ではたった一つの大陸を残して世界は人の住めぬ環境へと変貌していた。 荒涼とした不毛の大地は見渡す限り続き――それでも、長い年月をかけて再興に尽くしてきた人類は少しずつ生活の基盤を築き上げていく。 大陸のほぼ中心に位置する、戦後最も大きな発展を遂げた魔導都市(ビフレスト)。 世界の全てに満ちる因果を読み解き、それを引用する事で様々な事象を引き起こす『魔導』を象徴としたこの都市をグルリと囲むように、人々は大小の差こそあれ、街や村を興して現在の文明圏を形作っている。 国家という概念は今の世には薄く、言ってしまえば大陸そのものが国家であり、《ビフレスト》が政府の役割を果たしていた。 そんな背景を抱える、新西暦四百七十七年現在。 かつて栄華を極めた『機械』の知識と技術はそのほとんどが失われて久しい。 当時の文献はほとんど残っておらず、故に『機械』について現代の人間は大陸中に点在する文明の名残――要塞や建造物のなれの果てである機械遺跡を掘り起こす事でその一端を理解しているに過ぎなかった。 そのため、魔導都市はこれらに関する研究・解明は専門的に組織された《灰色の揺り籠》と呼ばれる機械研究者の団体に一任する形を取っており、それ以外の人間がこれに侵入、および遺産を運び出す行為を禁忌として扱っていた。 だが――。 いつの時代でも、異端者というのは存在する物だ。 遥か昔に失われた文明。 五百年の時を経た今でも稼動する遺跡の防衛機構。 それらを攻略する危険と興奮に魅せられた人間は、現代の世では数多く存在した。 彼らは単独、ないし複数で遺跡に潜り、暴き、解明する。
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