一章 大佐と少佐

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それに反論しようとして鋼は口を開きかけ、しかし言われている事は正論であるので悔しげにむうと唸り、 「わぁってるよ。ただでさえここは未開の遺跡なんだ、悠長に構える気はねぇさ」 拗ねるように唇を尖らせ、別の言葉で喉を湿らせた。 顔を持ち上げた空がそれに満足そうに頷き、地図を畳んでバックにしまうと、鋼の先に立って歩き出す。 「兄さんにしては物分りがいいね。とりあえず、ルートは見失っていなかったよ。あれだけ走り回ったのに運が良かった。こっちだよ」 上機嫌で先導する空の後を、何となく釈然としない面持ちで鋼が続く。 今回は、依頼主から報酬の他に遺跡に関するデータも受け取っている。 空が先程見ていた地図もその一つで、潜る前にいつも遺跡の詳細な情報を仕入れて作戦を考える空にとってはまさに至れり尽せりだ。 「…………」 前を歩く空の背中から視線を外し、ぐるりと周囲を見回す。 何百年も人の手に触れず、人の目に触れず、人の侵入を拒んできた遺跡の中は、シンと耳の痛くなる静謐で装飾されていた。 金属の人工物は腐りも風化もしない。 その代わり、こうして不変の光景と静けさを作り上げていくのだ。 指先でなぞるように触れた壁は冷たく硬質的で、その感触は機械文明の栄えていた頃を夢想するにはあまりにも鋭かった。 とは言え、こうして実際に見、触れ、感じる事に、鋼は確かに寂寥のような感情を抱きはしたが、同時に胸の奥で躍動する熱も感じていた。 それが感傷と幻想である事は理解していたが、そもそも禁忌を犯して機械遺跡に関わろうとする時点で、余人に計り知れる物ではないのだろう。 期せず感慨に浸ってしまった自分に笑い、壁から指先を離す。 名残惜しそうに見つめてみても、金属の壁は人の温もりなど初めから感じていなかのように沈黙を保ち続け、やはり不変で表情を彩っている。
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