一章 大佐と少佐

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弾かれるように視線を巡らせると、必死にコンソールのキーを叩く空の姿が目に映った。 明らかな異常事態。 何かが起きた。 だが、何が――? その答えを求め、慌てて駆け寄ろうとする鋼の足音をかき消すように、突然、けたたましいブザーの騒音が遺跡の中を埋め尽くした。 鋼の動きがギクリと止まる。 聞き覚えのある音。 何となく、警報勧告のブザー音に似ていなくも無い。 「空、おま、これ……さっきの機械兵器起こした時と同じじゃねぇか! 何しやがったんだ!」 「知らないよ! 兄さんが変な玉を手に取った時にいきなり警告が出て、作業を全部中断されたんだ。そしたら、なんか別のシステムが勝手に起動して!」 やられた。 いやに無造作に置いてあると思ったが、まさか防衛機構と連動していたなんて。 とにかく、このままでは非常にまずい。 またあれだけの機械兵器に押し寄られては堪った物ではない。 まだ食い下がっている空の肩を掴むと、鋼は他には目もくれずに走り出そうとして―― ドン、という派手な破壊音。 目の前の壁を突き破って何かが踊り出てきたのは、次の瞬間だった。 頑強な鉄の壁がひしゃげ、轟音を撒き散らし、勢い良く二人の前に馬鹿でかい塊が滑り込んでくる。 「――のやろ、次から次へと!」 忌々しそうに吐き捨てる鋼の目前でゆっくりと身を擡げるのは、四本足に真紅の単眼(モノクル)、耳障りな機械音を撒き散らしてぎこちなく立ち上がる、それは遺跡の迎撃ユニット、機械兵器だった。 鋼鉄の体を持つ蜘蛛モドキが身を持ち上げるのに合わせて、鋼の視線がゆっくりと上に移動していく。 確かにそれは、ついさっきまで二人を追い掛け回していた機械兵器に違いはなかった。 なかったの、だが―― 「うわ! でかぁ!」   空の悲鳴が示す通り、そいつは確かに大きかった。 鋼の頭からさらに一メートルは飛び抜けている。 圧倒的な威容に、ひうっと空が小さく息を呑んだ。  しかしこの時、鋼の目を引いたのはその馬鹿でかい威容ではなく、鋼鉄の体に幾つも刻まれた、まだ真新しい傷跡だった。
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