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『魔導』と『機械』とを支持する人間同士の争いの際、それは『機械』側の人間達が標準的に用いた兵装の一つ。
元々は義手や義足としての技術であったこれらの応用である《機甲義体(オート・アームズ)》は、『魔導』の技術が一般的である現代においても人を制すための兵器として認識されている。
「お、おい、空(くう)! お前、早くあれなんとかしろよっ!」
「だから、その辺の機械あまりいじらないでって言ったのに! 兄さんのバカ、アホ!」
全力疾走する鋼のやや後ろ。
どことなくげんなりとした顔で、彼の双子の弟――神楽坂 空(かぐらざか くう)は罵声を吐き出した。
温和な顔付きで、サラリと流れる黒髪と柔らかな雰囲気を持つ青年だった。
兄の鋼が触れれば斬れる鋭利な刃なら、弟の空はフワリと流れる浮雲だ。
基本的な造作は一緒なのに、それぞれが身に纏う雰囲気はまるで正反対。
こちらはフード付きのシャツに膝上までのパンツと軽装だが、その背中には少し大きめのバッグを背負っていた。
鋼と同じように、空は左腕が《機甲義体(オート・アームズ)》だ。
シャツの長袖に隠れる機械の腕は、しかし生来の物となんら遜色なく彼の意志に従って正確に動いてくれている。
走りながら罵詈雑言を吐き捨てる空に、鋼が怒鳴り声を返す。
「うるせぇ、今さらごちゃごちゃ文句言うな! やっちまったもんは仕方ねぇだろがよ!」
「うあ、逆ギレ!」
「だあ、いちいち突っ込むな! いいから早く後ろの奴を蹴散らせよ!」
鋼に言われ、恐る恐る後ろを確認する空。
さして広くもない通路を埋めるように、《それ》は四肢を両脇の壁に打ち込みながら、凄まじい速さで迫ってきていた。
空の頬が引き攣る。
《それ》はまるで、無骨な機械の体を持つ四本足の巨大な蜘蛛だった。
生物的なフォルムを放棄した、無機質な鉛色の巨体。
ぶっとい柱のような足は先端が鋭利に尖っており、その足を壁に突き刺しながら生理的に嫌悪を抱く動きで二人の背中を追いかけてくる。
軍事目的などで建造された遺跡によく見られる、侵入者迎撃用の兵器ユニットなのだろうが、そのモデルが良くない。
昆虫に苦手意識の無い二人ですら、それの動きは悪寒を誘うものだった。
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