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~囘想~
常樹沙羅が小学校六年生のときだった。
大学の研究室に入っていたためか、常樹の母が帰路についたのは深夜零時をまわってからだったそうだ。
しかしこれは確かめることはできない。
本当に帰路の途中だったのかさえ、今となってしまってはわからないのだ。
とにかく常樹の母は死んだ。
いつもの帰り道の途中で死んだ。
〈第一発見者ハ常樹沙羅ダッタ〉
常樹の母の腹部には止マレの標識が突き刺さっていたそうだ。
あたりは血まみれの地獄絵図、普通なら失神してもおかしくない状況で、常樹は失神しなかった。いやできなかった。
彼女の神経はそれを許さなかった。嘔吐を繰り返し、吐捨物まみれの彼女が行った思考は
〈誰コレ……?〉
母の顔はなかった。いや吹き飛んでいたと言うべきか、首から頭が生えているはずの部分がない。
その傷痕はまさに吹き飛んでいたと言うにふさわしい雑さだった。
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