~ 一杯の牛乳 ~

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ガチャとドアが開く音がして、先程の女性が顔を覗かせました。 女性は大人が来たのかと思い一瞬驚いた顔をしましたが、男の子と同じ目線になるようしゃがみます。 そして、 「僕、どうしたの?」 と優しい笑顔を浮かべました。 男の子はとても気分がよくなりました。 いつも男の子は身なりが汚いというだけでいつも同い年の子供たちの輪から外されていました。 だから優しい笑顔を向けられることですら嬉しいと思ったのです。 慣れていないからか、恥ずかしさで目を反らしてしまう男の子。 女性は顔を傾げる。 そして沈黙が流れる。 男の子はこの沈黙をどうしようかと考えていました。 そして、最初の目的を思い出し、一言。 「あ、あの、み、水を一杯くだひゃいっ!」 緊張からか、大事なところで噛んでしまった男の子。 まるで熟したトマトのように赤くなってしまう。 すると女性は何も言わずに家に戻ってしまいました。 男の子はやってしまった、と後悔しました。 自分はなんて失礼なことをしてしまったんだろう、と。 しかし、それは大きく違っていました。 男の子が下を俯いていると、またドアが開き女性が出て来ました。 その手には牛乳が入れられた大きめのコップが。
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