今月今夜のこの月を

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  真摯な願いに、仕方なく、「お願いします」とだけ言った。 ティーポットを持つ園は、嬉しそうだ。 「それで、どうでした?」 質問の意味を捉えかねている秋田に、園が付け足す。 「ほら、お貸しした本です。『金色夜叉』」 秋田ははっとして、ふところから本を取り出した。 「なんというか……」 秋田にとっては、非常に感想を話しづらい内容だった。 主人公、貫一の婚約者のお宮は、貫一を捨て、金持ちの男と結婚してしまう。 印象的なのは、貫一がお宮を責める場面だ。 「『今月今夜のこの月を……』」 思わず台詞を口に出すのと、ティーカップが置かれるのは同時だった。 うすく花びらが描かれたティーカップは、持つだけで緊張しそうだ。 秋田の顔をのぞきこむようにして、園は聞いた。 「秋田さんは、お宮を裏切り者だと思いますか?」 「いいえ」 これには、即答できた。 「貫一は、お宮の結婚を見守るべきです。そりゃあ、一方的に婚約を破棄されて怒るのも無理はありませんが……僕が貫一なら、別れ際にあんな恨み言は言いません」 「では、なにを言うのですか」 「お宮の幸せを願う言葉を」 園はまだ、問うような眼差しを向けている。  
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