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秋田はできるだけ園の目を見て答えた。
「愛する女性には幸せになってほしいものではないでしょうか」
ここ数週間、秋田はそればかりを考えて生きてきた。
園が秋田の前に座った。
「ねぇ、秋田さん。お宮は、幸せになれたのでしょうか」
まっすぐに秋田を見つめて言う。
「やはり女性は、愛する男の方と結婚すべきです。きっと、それが一番の幸せなのですよ。それが、新しい時代の結婚のあり方ではないでしょうか」
園の言葉は、どこかの演説のようだった。
秋田は紅茶に手を伸ばそうとして、やめた。
誤魔化しは、園の前では通用しないような気がした。
「いまの女性は、月なのだそうです」
園の熱い舌は止まらない。
「元来、女性は太陽でした。いまは様々な権利を奪われていますが、女性は太陽であるべきです」
二人だけの部屋は、園と一緒に沈黙した。
破りがたい空気だ。
今度こそ、秋田は紅茶を飲んだ。
渋みが強い紅茶は、たしかに美味しいのかもしれないが、秋田にはよくわからなかった。
園も同じように、ティーカップを手にとる。
自分の心臓の音がよく聞こる。
それと同じ速度で時間を数えていた古時計が、リンゴーンと鳴った。
「園さんはきっと、本当に綺麗な月を見たことがないのです」
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