あなたは白を知らない

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放課後、旧校舎の裏手は人が通らない。 あの日、俺は裏庭の掃除を終えて、掃除道具入れに箒を返しにきていた。 ふと、視線を感じる。 窓枠に肘をついた女生徒と目があった。 ちょうど一階の窓だったので、俺と同じ目線だったのだ。 そのときだった。 白いものが、目の前をよぎった。 「……あ」 塵かと思ったが、違う。 雪だ。 「触っちゃだめよ」 窓辺の彼女がぽつりと言った。 「今年最初の雪をつかむと、不幸になるのよ」 空に向けられた彼女の手のひらに、雪が吸い寄せられていく。 薄い唇が動く。 「はじめまして」 「……あの」 「わたしはねぇ、雪の妖精よ」 豪快な嘘だ。 彼女は「紅茶でも飲む?」と窓枠を叩いた。 「ここ、家庭科室なの」 「使用許可はあるんですか」 彼女は得意気に首を振った。 「秘密よ。 春くん」 「俺の名前……」 俺の名前は、梶原 春樹。 愛称は春だ。 彼女は驚く俺を手招いて、一言で疑問に答えた。 「わたしは雪だから、春がわかるのよ」  
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