あなたは白を知らない

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「先輩だったんですね」 あれから何度も、俺は家庭科室を訪れていた。 自分のことを雪の妖精などと言うのに、彼女の回りは不思議とあたたかい。 「どうして?」 彼女が楽しむように、ティーカップの端を指でなぞった。 どきりとする。 「スリッパが、青色だから」 この高校は学年ごとにスリッパの色が違う。 緑色の俺は高校二年生。 そして、青色は三年生だ。 「妖精には、先輩も後輩もないのよ」 「またそれですか」 彼女いわく、自分は雪の城から抜け出してきた妖精、らしい。 「あ、また雪が降ってきた」 彼女のしゃいだ声が響く。 「雪の妖精が踊ってるのよ」 「あなたは踊らなくていいんですか」 「わたしが踊ったら、雪の王にね、城から抜け出してきたことがばれちゃうもの」 雪の王はとても恐ろしい人なのだそうだ。 そうですか、と、俺の返事も冷たくなる。 「じゃあ、ずっとここにいればいいですよ」 話を合わせると、無理よと、うすい唇に人差し指をあてた。 瞳は真剣だ。 「わたし、春になると溶けてしまうもの」  
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