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息を整える。
回想は終わりだ。
彼女はいた。
開かれた扉に反応して、ベッドの上から、呆然とこちらを見ている。
「お久しぶりです」
最初の言葉は、ありきたりなものになった。
再会はもっと感動的だと思っていたけど、実際に彼女に会ってしまえばそれはただの現実だった。
俺の頭に、ふと彼女の笑顔がよみがえった。
「もうすぐきっと、春一番が吹くわね」
「わかるんですか?」
「春の匂いがする」
彼女は不思議な人だ。
「春って、呼ばれてたでしょ」
彼女は立ち上がって、窓から身を乗り出した。
「裏庭で、サッカーしてたよね」
「……見てたんですか」
「ここから見えるの」
傍によって、手をつかんだ。
ゆっくり、彼女が俺を見上げる。
瞬きを一つ。
それが合図だった。
唇が、重なる。
彼女の唇は、少し冷たく、かさついていた。
「心臓、壊れちゃいそう」
まだ息がかかる距離で、彼女は言った。
どう返せばいいのかわからず、「……俺もです」と素直に口にした。
先輩がいなくなったのは、その二日後だった。
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