あなたは白を知らない

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  病室の窓は開かれていて、ゆるやかな春の風が彼女の黒髪を揺らしている。 そっと桜を差しだすと、彼女は黙って受け取った。 「まず、三年生の名簿を探したんですが、雪という生徒はいませんでした。 ……調べましたよ」 息を吸いこむ。 「同じ学年だったんですね。 園田 雪子さん」 彼女はただ、話の続きをうながした。 「留年、ですか」 「好きで留年したわけじゃないわ」 彼女は、とんとん、二回、左の胸をたたいた。 心臓のある場所だ。  
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