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「言ったでしょ? 抜け出してきたって」
「あなたにとって、病院は雪の城ですか」
口調に、責める響きがまじる。
なんて比喩的で、不親切な表現だろう。
彼女は、「雪の王は医者よ」と、もう一つ自分の言葉をなおした。
白い指が桜をなでる。
「どうして来たの? わたしの病気、調べたんでしょ? 近くの病院から、こんなに遠くの大学病院に移ったのだって……」
「手術、するんですよね」
彼女は頷くことで答えた。
言葉にはできなかったのかもしれない。
彼女が黙って消えてから気づいたことだが、彼女はとても臆病で繊細だった。
「雪と一緒に溶けたことにしたかったのに」
それは、俺に対してか、自分に対してか、はたまた雪に対して言ったのか、判別はつかない。
「馬鹿にしないでください」
俺は、彼女を抱きしめた。
白いベッドに身を乗りあげて、彼女の無言のどうしてを受けとめる。
そんなの、俺にだってわからない。
「覚悟もなく、こんなところまで来たわけじゃありません」
彼女はやっぱり、どうしてと言った。
だって。
抱きしめた彼女はあたたかいのだ。
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