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ピアノの音色は、実に変わっている。
とんとん、と飛びはねたかと思えば、雷を落としたりもする。
琴よりもリズミカルで、太鼓よりも繊細だ。
秋田は、足音を立てないように窓の側に寄った。
この屋敷の庭はご主人の趣味で「英吉利のガーデン」を真似ているのだそうで、一見鬱蒼としている。
華族の豪邸にふさわしく、広い庭だ。
が、ピアノの音は不思議と、庭の隅々の空気まで揺らす。
秋田は目を閉じ、その音を堪能した。
しばらくすると、ふと曲が途切れ、窓が開く。
「上がっていらしてください」
窓から、少女が顔を出した。
女学生らしく袴をはいて、黒髪を少量、リボンで束ねている。
園さん、と呼びかけようとして、秋田は言葉をひっこめた。
いままでそう呼んではいたが、どうにも急に馴れ馴れしく感じたのだ。
「この間貸していただいた本をお返ししようかと思いまして……」
秋田は言い訳がましく言った。
あら、と頬に手をあてると、園は扉を指さした。
「そこからお入りください」
「それはできません」
秋田は首を振った。
「洋の間に入ることは、禁じられておりますので」
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