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この屋敷には秋田を含めて三人の書生がいるが、三人とも、この庭の隅にある洋館への立ち入りを許可されていない。
園は、「私が無理矢理引っ張ったのですから、秋田さんは悪くありませんよ」と言うと、そっと、秋田の手を引っ張った。
窓枠に身を乗り出す形になり、秋田は慌てた。
園が笑う。
「扉から入るのが嫌なら、窓から入ってくださいな」
「そ、園さん」
先ほどの考えなんて忘れて、秋田は思わず名前を呼んだ。
園は小指を差し出した。
「お母様には、男の方を部屋に入れたことは内緒ですよ」
その瞳に邪気はなく、秋田は思わず目の前の白い小指に自分の小指を絡めてしまった。
園は部屋の中央の椅子に秋田を座らせた。
前には対になるかのようなアンティークテーブルがあって、どうにも落ち着かない。
ピアノは、窓の側、部屋の端に置かれていた。
「お茶はいいわ。私が入れます」
なにか言いたそうな女中を下がらせて、自ら紅茶を入れようとするので、秋田はまた慌てた。
「そんな……すぐにお暇しますので」
「私のお気に入りのダージリンの茶葉がありますのに」
「では、僕が入れます」
「どうか入れさせてください」
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