401人が本棚に入れています
本棚に追加
一風音(にのまえふうと)は都内の大学に通う大学一年生である。小中高ととんだド田舎で過ごし、都会に憧れ、地元での就職を望む堅物の両親を説得して上京してきたのだ。修学旅行等で東京を訪れたことがあるが、そのたびに世界が違うということを感じていた。そこには、自分が望むもの全てが内包されているとも思われた。三つしかチャンネルのない地元で放送される楽しそうなこと、危険なこと、そのほとんどが都会のものであり、いつか自分もあの場所に飛び込むんだと小さい頃から高揚していた。
そして今年四月には上京をしてきて大学の入学式に出席した。もちろん、田舎者らしく都会の路線の数におどろき、案内してくれるガイドのお姉さんもいない中で右往左往しながらさ迷った。地元ではもっぱら車で、電車なんか一時間に一本なのだから当然だ。
入学式が終わるとサークル勧誘のお兄様お姉さま方の勧誘が始まった。
「君、君。身長高いね。バスケどう、バスケ」黒タンクトップで筋肉を誇示する短髪男が言う。
「すいません。モデルしてくれませんか?私達、ファッションのサークルなんです」物静かそうなカチューシャを付けた女が言う。
気付くと風音の回りには人だかりが出来ていた。赤みがかった柔らかい茶髪にメガネ姿。細身で他より頭一つでた高身長。地元にいた頃から都会に憧れ、雑誌でファッション等の研究に余念がなかった風音。先天的に恵まれた顔立ちと相まって、大学デビューは成功していた。
「すいません、俺、バイトしなきゃなんで……ホントすんません」
親に仕送りはいらんと啖呵をきってきた手前、サークルで時間を潰しているわけにはいかなかった。
そして友達も多くでき、彼女にも恵まれ、バイトにも精をだし、華やかな大学生活を自立していた。
そして今に至る。
最初のコメントを投稿しよう!